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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)450号 判決 2000年11月09日

原告

カメヤマ株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

村松昭夫

坂本団

被告

東亜若松株式会社

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

今口裕行

中光弘

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙目録4記載の包装箱のローソクを譲渡してはならない。

二  被告は、その占有する別紙目録4記載の包装箱及び同包装箱のローソクを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一二〇〇万円及びこれに対する平成一一年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、別紙目録1及び2記載の包装箱(以下、それぞれ「原告包装箱1」、「原告包装箱2」といい、まとめていう場合には単に「原告包装箱」という。)にローソクを収納して販売している原告が、平成六年四月から同七年七月までは別紙目録3記載の包装箱に、同年八月から現在までは同目録4記載の包装箱(以下、それぞれ「被告包装箱3」、「被告包装箱4」といい、まとめていう場合には単に「被告包装箱」という。)に、それぞれローソクを収納して販売してきている被告に対し、原告包装箱は、原告の商品表示として周知、著名であるところ、被告包装箱は、原告包装箱と類似し、被告の右販売行為は、原告の商品との誤認混同を生じさせる行為であり、被告の右販売行為は、不正競争防止法二条一項一号又は同項二号所定の不正競争に該当するとして、同法三条一項に基づき被告包装箱4の譲渡の差止めと、同条二項に基づき被告包装箱4及び同包装箱のローソクの廃棄と、同法四条に基づき被告が被告包装箱を販売したことによる損害賠償を求めている事案である。

以下、書証は、甲1などと略称し、その枝番のすべてを引用する場合には、枝番の記載を省略する。

第三争点

一  周知性、著名性

原告包装箱は、原告の商品表示として周知(不正競争防止法二条一項一号)又は著名(同項二号)か。

二  類似性、混同のおそれ

被告包装箱は、原告包装箱と類似するか(同項二号)、又は類似し、被告による被告包装箱3及び4の販売は原告の商品と混同を生じさせるか(同項一号)。

三  差止め及び廃棄請求の必要性

四  損害額

第四争点に関する当事者の主張

一  争点一(周知性、著名性)について

【原告の主張】

1 原告は、昭和四六年ころ以降、原告包装箱にローソクを収納して販売してきた。原告の右包装箱の使用は、いずれも長期にわたり、日本全国において原告の製造、販売するローソクの包装箱として継続的に使用され、全国的に宣伝広告もされてきた。

その結果、原告包装箱は、原告の商品の出所を示す表示として世間に広く認知されるに至った。

したがって、原告包装箱は、原告の商品表示として周知、著名である。

2 被告は、原告包装箱の構成要素を個別に取り出して、それぞれについて個別に評価し、いずれもありふれているから、周知性、著名性を有しているとはいえないと主張する。

しかし、原告包装箱の有する特徴を、他と切り離した形で個々に評価するのは正しくない。原告包装箱の個々の構成要素は、他の構成要素と有機的に関連し、一体となることによって、自他識別機能ないし出所表示機能を有しているからである。

【被告の主張】

1 原告包装箱は、いずれも地色が紺で、箱に表示される文字等に使用される色彩が、白・赤・黄であるが、それらの色は、原色であって何ら特殊な色ではないし、日本人の好きな色の上位を占めるものである。特に地色の紺(青)は、ローソクの色が引き立ち、また仏事等に合うということで、ローソクの包装箱には洋の東西を問わず広く用いられているものである(乙1ないし9)。

しかも、色彩は古来存在するものであって、本来何人も自由に使用し得るものであり、紺、白、赤、黄というようなごくありふれた色彩について特定人に独占的使用を認めるとすると、他の者は自己の商品に付する色彩の選択肢の範囲を狭められ、極端にいえば最後発の業者は、商品に付する色彩がなくなってしまうというような事態にもなりかねないから、複数の色彩の具体的な組み合わせであればともかく、地色が濃紺であるとか、抽象的に箱に表示される文字や図柄に使用される色彩が白・赤・黄であるという点については、不正競争防止法二条一項一号、二号による保護は認められないというべきである。

2 原告包装箱は、いずれも六面が白い枠で囲まれているが、このように包装箱の周囲を白い枠で囲むというのは古くは牛乳石けんの商品でも使用されており、特段目新しいものではなくむしろありふれている。

3 原告包装箱は、いずれも内容物が見える窓がついているが、それも日用雑貨品ではありふれたものである。

4 被告は、昭和三〇年ころから、「富士錨印」という商品名でローソクを販売しているところ、その包装箱は地色が紺で、文字等には赤、白、黄が使用され、六面が白い枠で囲まれており、昭和四〇年ころから販売された同商品の包装箱には、内容物が見える窓もついている。また、被告以外の同業他社も、同様の包装箱にローソクを収納して販売している(乙3ないし9)。

5 以上のことからすると、原告包装箱が、原告の商品表示として周知性、著名性を有しているとはいえない。

二  争点二(類似性、混同のおそれ)について

【原告の主張】

1 原告包装箱は、いずれも①箱の地色が濃紺であり、②箱のすべての面が白枠で囲まれており、③箱に表示される文字や図柄に使用されている色彩は、白、赤、黄、青であり、④箱の正面に釣り鐘型の窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっているという、特徴を有している。

被告が同業他社製品を含むローソクの包装箱として引用するもののうち、乙1ないし8は、いずれも原告包装箱を模倣したものであり、これらの存在により、原告包装箱の右特徴が否定されるものではない。

これに対し、被告包装箱は、いずれも原告包装箱の右特徴をすべて具備するものであり、特に「ローソク」の文字も原告包装箱と同様白色で、「煌」又は「KIRAMEKI」の文字は、原告包装箱の「カメヤマ」の文字がそうであるように、黄色や赤色で表示され、平面及び底面に白色文字でローソクのサイズや本数が記載されている。さらに、包装箱の形状・寸法もほぼ同一である。

したがって、被告包装箱は、原告包装箱と極めて類似している。

2 また、①両者が類似していること、②被告包装箱には被告会社名は包装箱の背面に記載されているのみであり、ほとんどの需要者は購入時に被告会社名に気づかないこと、③ローソクの主要な購買層は、比較的高齢の顧客であるため、被告包装箱の正面に記載されている「KIRAMEKI」を「KAMEYAMA」が表記されていると誤解するおそれがあること、④被告包装箱の正面に記載されている「煌」は被告を表す固有名詞ではないため、その他の類似点から原告の新商品であると誤解されてしまうことから、被告がローソクを被告包装箱に収納して販売する行為は、原告の商品と混同を生じさせる行為である。

現に、被告包装箱3に収納されて販売されているローソクを購入した需要者が、これを原告の製品であると誤信して、その製品に対する苦情を原告宛に申し入れてくる例がある。

【被告の主張】

1 原告包装箱と被告包装箱とを比較すれば、以下のとおりの違いがある。

(一) 地色

地色原告包装箱は濃紺であるが、被告包装箱はもっと色が薄くくすんだ青色が基調になっており、しかも横に縞模様が入っている。

(二) 窓

原告包装箱は釣り鐘型の窓が開いているが、被告包装箱はもっと細長くていわばソーセージのような形である上、上下に分かれており、間に「KIRAMEKI」、「暑中保証最高級品」の文字が印刷されている。

(三) 「煌」の文字

被告包装箱には、黄色で大きく漢字の「煌」という文字が印刷されている。

(四) 山亀マーク及び三本燭台

原告包装箱には赤字の山亀マークや三本燭台が印刷されているが、被告包装箱にはそのようなものはない。

(五) カメヤマの文字

原告包装箱には正面及び側面に「カメヤマ」の文字が印刷されているが、被告包装箱にはない。

以上の両者の違いによれば、両者が一見して類似しないことは明らかである。

特に縞模様が入っていること等地色の違い、登録商標が表示されているかどうか、及び「カメヤマ」の文字が記されているかどうかは類似性を判断する上で大きな意義を有すると考えられるところ、これらが原告包装箱と異なる被告包装箱は全体としてみても類似していない。

2 原告が主張する原告包装箱の特徴点が、原告包装箱の要部になり得ないことについては、前記一【被告の主張】のとおりである。

3 被告が被告包装箱にローソクを収納して販売する行為が、原告の商品と混同を生じさせる行為であるとの原告の主張は争う。

三  争点三(差止、廃棄請求の必要性)について

【被告の主張】

原告の請求のうち、ローソクの譲渡やローソクの廃棄を求める部分は根拠を欠き、理由がない。

【原告の主張】

争う。

四  損害額

【原告の主張】

被告は、平成六年四月ころから平成七年七月ころまで被告包装箱3に、同年八月ころから現在まで被告包装箱4に、ローソクを収納して販売してきており、それらの販売により、年平均で約三〇〇〇万円、合計約一億二〇〇〇万円を下らない売上を上げており、少なくとも、その一〇パーセントに相当する金一二〇〇万円の利益を得た。

したがって、被告が被告包装箱3及び4にローソクを収納して販売したことにより被った原告の損害額も金一二〇〇万円と推定される。

【被告の主張】

争う。

第五争点に対する当裁判所の判断

一  争点2(類似性、混同のおそれ)について

1  原告包装箱の形態

原告包装箱1及び2の形態は、別紙包装箱対比表「原告包装箱1」、「原告包装箱2」欄記載のとおりである(検甲1、2)。

2  被告包装箱3及び4が、原告包装箱1又は2と類似しているといえるかどうかは、取引の実情の下において、需要者が両包装箱の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当であるが、不正競争防止法二条一項一号及び二号が、自他識別機能及び出所表示機能の点で優れている周知又は著名な商品表示を保護するものであることからすれば、右おそれがあるか否かを検討するに当たって、まず、原告包装箱1及び2のうち自他識別機能、出所表示機能が特に認められる部分(要部)はどこかを、需要者の観点から検討し、当該部分を被告包装箱3及び4が具備しているかどうかを中心として、全体の類否を判断すべきである。

(一) 被告包装箱3の販売が開始された平成六年四月当時におけるローソクの包装箱の実情

右当時、市場には、原告包装箱1及び2のほか、次のようなローソクの包装箱が存在していたことが認められる(甲12ないし22、後掲各証拠、弁論の全趣旨)。

(1) 富士錨ローソク(製造元・被告、乙1)

ア 箱の地色は濃紺である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 正面上部には、白色の「富士錨」の文字と赤色で白の縁取りがある「ローソク」の文字が横一列に大きく書かれ、その上に「暑中保証」の文字が黄色で横一列に小さく書かれ、正面下部に錨型のデザインが白い縁取りで施され、そのデザインの左右に、「商標」「登録」の文字が赤色で縦に小さく書かれ、その下に「東亜若松株式会社」の文字が黄色で横一列に書かれている。

エ 箱の正面中央部には富士山型の窓が開いていて(ただし山頂部分は窓ではなくイラストとなっている。)、中のローソクが見えるようになっている

(2) 金鳥印のローソク(製造元・被告、乙2)

ア 箱の正面の地色は濃紺であり、その他の面の地色は白色である。

イ 箱の正面は、白と水色の二重枠で囲まれている(白が外側)。

ウ 箱の正面上部には、「暑中請合」、「金鳥錨印最高洋蝋燭」の文字が白色で横に、かつ上側に凸に湾曲した列に書かれ、その下に錨型のデザインが水色で描かれ、そのデザインの中央には地色が白色の丸があり、その中に赤と黄色で鶏のイラストが描かれ、そのデザインの左右には「商標」「登録」の文字が黄色で縦に書かれ、そのデザインの下には、「最高級品」の文字が青色で横一列に書かれている。

エ 箱の正面下部には、正方形の窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっている

(3) TAKARAローソク(製造元・佐藤油脂工業株式会社、乙3)

ア 箱の地色は紺である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 箱の正面上部には、「TAKARA」の文字が赤色で横一列に大きく書かれ、その下に「ローソク」の文字が白色で横一列に大きく書かれ、その下にローソクの炎の明かりが広がる様をイメージした黄色の同心円が赤色の炎を中心に描かれ、その下のローソク本体部の左右には、「保証」、「品質」の文字が水色で縦に小さく書かれ、ローソク本体の下には、「S-4号20本入」、「225g」の文字が白色で横2列に書かれている。

エ 箱の正面にある右ローソク本体は、切り開かれた窓となっており、中のローソクが見えるようになっている

(4) コーヨーローソク(製造元・株式会社光陽社蝋燭工業所、乙4)

ア 箱の地色は濃紺である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 箱の正面上部には、錨をモチーフとしたイラストが黄色を基調に描かれ、そのイラストの左右には、「最高」、「級品」の文字が赤色で横に書かれ、その文字の下に「登録」、「商標」の文字が白色で横に書かれ、イラストの下には、「コーヨー」の文字が白色で横一列に大きく書かれ、その下に「ローソク」の文字が白色の縁取りがされた赤色で大きく書かれ、その下にローソクの炎をイメージしたイラストが、その炎部分及び炎から明かりが広がる様をイメージした部分は黄色、本体部分は白色で大きく描かれている。

エ 箱の正面にある右ローソクの炎部分は、黄色の縁取りを残して切り開かれた窓となっており、中のローソクが見えるようになっている

(5) 六星ローソク(製造元・六星蝋燭株式会社、乙6)

ア 箱の地色は青である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 箱の正面には、上部に「BEST CANDLE」の文字が白色の縁取りがある赤色で横一列に書かれ、その下に六個の星を図案化したイラストが白地に赤色で描かれ、その左右に、「暑中」、「保証」の文字が白色で縦に書かれ、その下にローソクのイラストが描かれており、その炎部分は、明かりが広がる様をイメージして、中心部分から、赤、橙、黄色、白、薄紫の順に炎のイラストが描かれ、本体部分は黄色の縁取りがなされており、そのイラストの下には、「六星ローソク」の文字が白色で横一列に大きく書かれている。

エ 箱の正面にある右ローソクの本体部分は、黄色の縁取りを残して切り開かれた窓となっており、中のローソクが見えるようになっている

(6) 日之出富士ローソク(製造元・国光産業株式会社、乙7)

ア 箱の地色は青である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 箱の正面には、上部に「最高級品」の文字が白色で横一列に書かれ、その下に「日之出富士」の文字が赤色で横一列に大きく書かれ、その下に「ローソク」の文字が白色の縁取りをした水色で横一列に大きく書かれ、下部には、「製造元」、「国光産業株式会社」の文字が白色で横一列に書かれている。

エ 箱の正面中央には、縦長長方形(上部の角は隅丸になっている。)の窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっている。

(7) 特撰3号ローソク(製造元・ニホンローソク株式会社、乙8)

ア 箱の地色は青である。

イ 箱のすべての面は白枠で囲まれている。

ウ 箱の正面には、上部左に錨をモチーフにしたイラストが白色の縁取りがある赤色で描かれ、その右に「特撰」の文字が黄色で横一列に書かれ、その下中央に「ローソク」の文字が白色の縁取りがある赤色で横一列に大きく書かれ、下部には、黄色の横帯が2本あり、その中に「心のあかりを」、「暮らしの中に」の文字が赤色でそれぞれ横一列にかかれ、その下に「3号」等の文字が白色で書かれている。

エ 箱の正面には、縦長の略長方形(上部の角は隅丸になっている。)の窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっている。

(二) 原告のローソク業界における地位について

証拠(甲6、8、11、乙32ないし34、36ないし39、51ないし54、58ないし75、77、122)によれば、原告は、昭和二年二月にローソクの製造販売を開始した個人営業の亀山蝋燭製造所が昭和二一年一〇月二一日に法人化された会社であり、個人営業時代を含めると七〇年以上にわたってローソクを製造、販売してきているものであって、国内における市場占有率はトップであり、昭和三八年以降は年間一千数百万円から二千数百万円程度、昭和四九年以降は一億円以上の費用をかけて業界紙、カタログ、雑誌及びテレビCM等により宣伝広告を行っていることが認められる。

右事実からすると、原告の会社名は、ローソクの製造、販売元として、需要者である一般消費者に広く認識されているものと認められる。

(三) 以上の事実を前提に、原告包装箱1及び2の要部はどこかを検討するに、まず、原告は、原告包装箱は、いずれも①箱の地色が濃紺であり、②箱のすべての面が白枠で囲まれており、③箱に表示される文字や図柄に使用されている色彩は、白、赤、黄、青であり、④箱の正面に釣り鐘型の窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっているという、特徴を有していると主張する(以下「原告主張特徴点」という。)。

原告主張特徴点は、原告包装箱1及び2に共通するデザインではあるが、それら(特に①ないし③)は、原告包装箱の形態のうちでは抽象的なデザインに係る部分である上、需要者が、原告包装箱1又は2を見る場合、原告主張特徴点のみを抽出して見るのではなく、原告主張特徴点とそれ以外の部分を一体のものとして見ることになるのであるから、それらが、原告包装箱1と2の共通点であることから、直ちに、原告包装箱1及び2の要部であるということはできない。

そして、原告包装箱の地色やそこに表示される文字や図柄に使用されている色は、ごくありふれた基本的な色彩であって、それ自体何ら特徴を有するものではなく(特に、原告包装箱の白、赤、黄色の色彩は、ローソクのイメージから得られるありふれた色彩ということもできる。)、また、包装箱においては、各面の周縁部を白色で縁取ったり、内容物が見えるようにするために窓を設けること自体もありふれたものである(乙83、84、88ないし90、92ないし95、乙104の1、2、4、乙106、乙108の1、3、4、乙109ないし113)。

その上、前記(一)記載のとおり、被告によって、被告包装箱3が販売され始めた平成六年四月の時点においては、①箱の地色が濃紺又は青色であり、②箱のすべての面が白枠で囲まれており、③箱に表示される文字や図柄に使用されている色彩は、白、赤、黄、青であり、④箱の正面に窓が開いていて、中のローソクが見えるようになっているローソクの包装箱は、多数存在していたのであり、その時点において、原告が、原告主張特徴点を具備したローソク包装箱の販売を独占的に行ったとは認められない。

また、原告が原告商品の宣伝広告において特に原告主張特徴点を強調していたということを認めるに足る証拠もない。

以上のことからすると、需要者が原告主張特徴点に強く印象づけられ、原告主張特徴点が原告商品を識別する際のポイント(要部)となっている状況は認められない。

なお、原告は、前記(一)で摘示した乙1ないし4及び乙6ないし8は、原告包装箱を模倣したものであると主張するが、原告主張特徴点が原告包装箱の要部になるかどうかは、市場において、原告主張特徴点に需要者の注目が集まり、原告の商品であることを識別するポイント(要部)になっているかどうかによって判断すべきであるから、原告主張特徴点を具備した他社製品が多数存在する以上、原告主張特徴点は原告の商品であることを識別するポイント(要部)にならないというべきである。

(四) 原告包装箱がローソクの包装箱であることからすると、需要者は、原告包装箱に接する場合、特にその正面のデザインに注目するものと考えられる。

そして、原告包装箱1の正面のデザインを、視覚的に見ると、中央部分に上部が円弧状になった縦長長方形の大きな窓があり、窓の上部にアルファベットの文字が白色で横一列に大きく記載され、窓の下部にカタカナの文字が黄色で横一列に大きく記載され、全体として、どっしりとした安定感のある雰囲気を醸し出している点に特徴があると認められる。さらに、前記(3)記載のとおり、原告の会社名は、ローソクの製造、販売元として、広く需要者に認識されていると認められるから、窓の上部の「KAMEYAMA」の文字(白色)、窓の下部の「カメヤマ」の文字(黄色)、及びアルファベット「KAMEYAMA」と漢字「亀」を図案化した「山亀マーク」と通称される原告登録商標(乙44、45)の記載(赤色)は、「この商品はカメヤマの商品である」との観念を生じさせる意味的記載であって、それらは正面に占める割合が大きいため、需要者の注目が強く集まるものと認められる。

したがって、原告包装箱1に接する需要者は、その正面に記載されているデザイン的特徴と意味的記載部分から生じる観念とを不可分一体のものとして認識し、その出所を識別するものと見るのが相当であり、それらが、原告包装箱1の要部になるというべきである。

また、原告包装箱2の正面のデザインを、視覚的に見ると、正面の中央部分に上部が円弧状になった縦長長方形の大きな窓があり、その上部に青色の燭台に立てられた3本のローーソクにいずれも赤い炎が燃え、その明かりが周囲に広がっている図形が比較的小さく描かれ、窓の下部にカタカナの文字が黄色で横一列に比較的大きく記載され、全体として、どっしりとした安定感のある雰囲気を醸し出している点に特徴があると認められる。また、原告包装箱1と同様、窓の下部の「カメヤマ」の文字(黄色)は、「この商品はカメヤマの商品である」との観念を生じさせる意味的記載であって、看者の注目が集まるものと認められる。

したがって、原告包装箱2に接する需要者は、その正面に記載されているデザイン的特徴と意味的記載部分から生じる観念とを不可分一体のものとして認識し、その出所を識別するものと見るのが相当であり、それらが、原告包装箱2の要部になるというべきである。

3  対比

(一) 被告包装箱3及び4の形態は、別紙包装箱対比表「被告包装箱3」、「被告包装箱4」欄記載のとおりである(検甲3、弁論の全趣旨)。

(二) 原告包装箱1と被告包装箱との対比

原告包装箱1と被告包装箱とを対比すると、需要者の注目が集まる正面のデザインにおいて、被告包装箱には、いずれも、窓があるものの、原告包装箱1のデザインが視覚的に全体としてどっしりとした安定感のあるデザイン的特徴を有しているのに対し、被告包装箱のデザインは、正面左五分の三程度を占めて窓が設けられ、他方、正面右五分の二程度を占めて漢字とカタカナの文字が縦一列に大きく書かれていることから、全体としてすっきりとしたシャープな印象を与えるデザイン的特徴を有している点で異なる。

また、被告包装箱の正面には、原告包装箱とは異なり、「KAMEYAMA」、「カメヤマ」の記載はなく、各窓の間に「KIRAMEKI」の文字(赤色)が横一列に記載され、窓の右側に「煌」の文字(黄色)と「ローソク」の文字(白色)が、縦一列に正面全体の五分の二程度を占める大きさで記載されており、被告包装箱に接する需要者に、「この商品の商品名は煌(きらめき)ローソクである。」との観念を生じさせる点で異なる。

したがって、原告包装箱1の要部と、被告包装箱とは外観及び観念が異なり、原告包装箱1と被告包装箱とを全体的に見ても、需要者が、両者の外観及び観念に基づく印象、記憶、連想等からそれらを全体的に類似のものと受け取るおそれがあるとは認められず、類似していると見ることはできない。

(三) 原告包装箱2と被告包装箱との対比

原告包装箱2と被告包装箱とを対比すると、需要者の注目が集まる正面のデザインにおいて、被告包装箱には、いずれも、窓があるものの、原告包装箱2の窓の上部にあるような燭台とローソクの図形はない上、原告包装箱1のデザインが視覚的に全体としてどっしりとした安定感のあるデザイン的特徴を有しているのに対し、被告包装箱のデザインは、前記(二)のとおり、全体としてすっきりとしたシャープな印象を与えるデザイン的特徴を有している点で異なる。

また、前記(二)同様、被告包装箱の正面には、原告包装箱2とは異なり、「カメヤマ」の記載がなく、その意味的記載から、被告包装箱に接する需要者に、「この商品の商品名は煌(きらめき)ローソクである。」との観念を生じさせる点で異なると認められる。

したがって、原告包装箱2の要部と、被告包装箱とは外観及び観念が異なり、原告包装箱2と被告包装箱とを全体的に見ても、需要者が、両者の外観及び観念に基づく印象、記憶、連想等からそれらを全体的に類似のものと受け取るおそれがあるとは認められず、類似していると見ることはできない。

三  以上より、その余の争点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

<以下省略>

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